マスク問題
世間では、マスクが足りない。
早朝からお店に並んで購入する人がいるらしい。
私は、もともと、なんとなく、もうすぐ冬だから、という理由で箱でマスクを購入していた。
お正月に、インフルエンザとか流行るだろうからと、母に箱のマスクを渡されていた。
一月の半ばに、持ち歩きやすい小分けのマスクが欲しいなぁと思って、買った。
一月末に、マスクを忘れたので、小分けのマスクを買った。
二月の頭に、100円ショップで、マスクはお一人様三つまで、という表示を見て、なんとなく買った。
そして、災害用の持ち出し袋の中に、マスクを入れていた。
家族が、仕事に困るだろうからと、マスクを分けてくれた。
だから、私の手元にはある程度のマスクがあって、当面はなんとかなる。
マスクって結構汚れる。
ファンデーション、口紅やリップ、自分の唾液。自分が吐き出す二酸化炭素やらなんやら。
くしゃみなんかしたらもうおしまい。
だから、一日に、三枚、四枚、使っていた。
でも、その勢いで使っていたら、手元にたとえば百枚マスクがあったとしても、一ヶ月弱でなくなってしまう。
何が問題かって、次はいつ入手できるのかわからないということ。
いま、食事するときにはマスクを外しているけど、ひどく汚れていなかったらそのまま、またそのマスクをつける。一日に二枚までに抑えようとしている。
不潔さを我慢するのか、マスクがないことを我慢するのか。
マスクというのは便利なものだ。
顔の大部分を隠すことができる。
他人の目をシャットダウンできる。
口が開いていてもばれない。
口を乾燥から守ることができる。
自分の鼻と口を、他人との接触から守ることができる。満員電車の中で、ほかの人と自分の鼻口を何にも接触させたくないとき。嫌な臭いから逃れたいとき。夜行バスやゲストハウスなんかで就寝時自分の鼻口がどこかに触れるのを防ぎたいとき。
その便利さに気づいたのは、2009年、新型インフルエンザが流行ったときだ。
みんながみんな、マスクをつけていた。
怖いほどに、マスクをつけていた。初夏なのに。
マスクをつけていないといけない雰囲気だった。マスクに意味があろうとなかろうと。マスクをつけていることが社会参加の資格があるみたいだった。
新型インフルエンザの最初の感染者が出た神戸出身の私は、マスクをつけなければ神戸の外に出てはいけないような気がしていた。
そのときはマスクをつける習慣がまるでなかった私だったけれど、いやいやマスクをつけているうちに、マスクの便利さに気づいた。
友達と香港に行った時、マスクをつけようとしたら止められた。
海外の人は日常的にマスクをつけない。
だから、異常なんだよと。
慣れない臭いや空気の中ではマスクをつけたかったけど、そういうものなんだと思ってつけなかった。
そのあと、色んな外国に行ったけど、どこの国でもほとんどの人がマスクをつけていない。
オーストラリアに行ったときは、マスクは重症の病人が他人を気遣ってつけるものだから、つけていたら「私はうつす病気です」と言っているみたいなもの、だからつけないでくださいね、と言われた。
もともと、そういうものなんだろうと思う。
でも、マスクがある便利さに慣れてしまっている。
マスクがあれば、鼻口が守られている気になる。他人やものとの接触から、目線から、そして空気から。
日本特有の文化なんだろう、マスクは。
冬になったら風邪やインフルエンザのためにマスクをする、暖かくなり始めたら花粉症のためにマスクをする、特に必要ないけれどなんとなくマスクをする。
だから、あちこちでマスクがたくさん売られていた。生産も、他国に比べたら格段に多いだろう。
マスク文化があったから、日本での感染がましなのかもしれない。
健康な人がマスクをつけても意味がない、という話を聞く。
でも、マスクは、安心感、なのではないだろうか。
自分の鼻口が覆われていること。他人やものに直接触れる可能性が低くなること。
マスクをしていれば、外に出てもいいような気がすること。そこに存在していてもいいような気がすること。
そういう、安心感。
実際にどうのこうのではない。心理的なものが大きいのではないか。
だから、私は、健康な人にも、感染者じゃない人にも、マスクは必要なんだと思う。
どこかを触った手で顔を触らないでください、と言うけれど、マスクがあれば顔を触ることも防げるし。
同時に、マスクは清潔感も表す。清潔感の安心感。
お医者さんや研究機関、工場などの人に、マスクをつけていてほしいのは、唾液を出さないでほしいと思うから。
「清潔」であってほしいと思うから。
まずは見た目から。
私が想像がつかないだけで、ほかにもたくさんあるだろう。ウイルス関係なく、「清潔」が常に求められているところが。あるいは、「清潔」であることを求めているところが。
だから、マスクは切らせてはいけないし、必要とする人みんなに行き渡ってほしいと思う。
いつかは需要に供給数が追いつくんだろうけど。
ただただ、みんなにマスクが行き渡ってほしいと願いながら、まずは自分のためにほしいと思う身勝手さ。
でも、しかたない。