「失敗の本質」
コロナ期間に、本友達ができた。
村上春樹ばかり勧められた。
私は村上春樹はエッセイばかり読んでいて、小説は短編しか読んでなかった。
好きなミュージシャンが「ノルウェイの森」を勧めていたので、親に貸してくれと言ったら、「まだ早い」と何度も言われ、ああ村上春樹の小説は私にはまだ早いんだと大人になっても思い続けて今日まで来た。
結論。よくわからん(笑)。私にはまだ早かった。
その友達はエッセイはまったく読んでないとのことで、エッセイを勧めまくっている。
その友達から、「失敗の本質」という書名を複数回聞いた。
戸部良一(政治外交史、国際日本文化研究センター)、寺本義也(組織論、早稲田大学)、鎌田伸一(組織論、防衛大学校)、杉之尾孝生(戦史、防衛大学校)、村井友秀(軍事史、防衛大学校)、野中郁次郎(組織論、一橋大学)『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』中公文庫で2020年3月で71刷。もとは1984年ダイヤモンド社刊。
小池百合子さんたちが絶賛しているらしい。
ぜひ読んで、というので、えー?と思いながら本屋に行ったら、8冊積んであった。
解説本等もあった。
売れている。
日本史をやってきたにもかかわらず、戦争のことは触れないようにしてきた。というか、戦争を避けたくて江戸時代を専門にしてきた。だから、戦争の本はできる限り読まないできた。
でも、防衛大学校の人が書いている本に興味を持ってしまった。
そして、「日本史」でないところにも興味を持ってしまった。
村上春樹が最新のエッセイ「猫を捨てる」で、お父さんが第六師団に属していて戦争に行ったらしい、と書いていたことも影響した。
まだ、半分しか読んでないけれど、なぜこれが今売れているのか、71刷まであるのか、わかる気がした。
買った。
日本軍は、かわいそう、という表現しかされてこない。
ノモンハン事件というのは、あまり語られない。
私ですら知らない。すら、と言っていいと思う。江戸時代専門とはいえ、一応日本史は高校生時代にはまりまくって、教科書的な内容はだいたいわかってるし、教員免許も持っている。
満州とソ連とモンゴルの国境付近での戦いで日本がめっちゃ負けて大変だった、くらいしか知らない。
遺族が骨を引き取らなくて大変だった、みたいな話で読んだくらいかな。
南の島で自決を強いられた話、疫病で大変だった話、食べ物がなくて困った話、原住民から逃げた話、終戦を知らなかった話。たいていが、一般の兵隊さんがかわいそうだった話だ。
トップの話はほとんど知らなかった。
戦争中の話で、真珠湾攻撃の知らせを聞いて、みんながわーい!ってなってる中、一部の「かしこい人」は顔をしかめて「この戦争は負ける」と言っていたとか、
英語は禁制となっていても学び続けていたとか、
そういう話を聞くけど、
戦争中、ほんとうに「かしこい人」は辛かったんじゃないだろうか。
理屈的におかしい、論理的に矛盾する、全体を考えたらだめなんじゃないか。今それをやっている場合か、今それで安心していいのか、今その姿勢で大丈夫なのか。カミカゼなんて吹かないに決まってる。
それが、今のコロナ禍に共通する。
おそらく、検査をもっとしていれば、今数字が出ている数倍数十倍の感染者数がいて、死亡者率はもっと低くなって、韓国や台湾に並ぶかもしれなくて、日本はほかの東アジアの国と同様にコロナでの死亡率は低かった、という結論になるんだと思う。
欧米と比べたら確かに日本の死亡率は低かったし、死んだ人は基礎疾患等あった人が多いから、コロナはましだったと言わざるを得ないだろう。それは東アジア全体の話。
山中伸弥先生はなぜコロナがましだったか、というのに「ファクターX」という語を用いていて、それがなんだったのかということを言っておられるけど、
たしかにその「X」の内容には、ハグやキスをしない文化や、家の中で靴を脱ぐ文化、清潔を好む文化、マスクをする習慣が含まれると思うけど、それだけで説明がつくものではあるまい。
そして、「民度」という言葉で片付けられるものではあるまい。
まるでカミカゼが吹いてコロナがましで、日本人はすばらしいから、すばらしい努力をしたからよかった、みたいに「えらい人」は言うけれど。
日本はすばらしかった、という自画自賛的なコメントを聞くたびに、ぞっとする。
戦争を思い出す。
結果的になんとかましだっただけで、
といっても、それは全国均したらましだったというだけで、東京や大阪は大変だっただろう。
保健所や役所や医療機関が死ぬほどがんばっただけで、それもトップに振り回されながらがんばるしかなかっただけで、それは戦争中の兵隊さんの姿と重なる。
10万円の給付、思いついたのは「えらい人」だし、なんやかんやコロナのせいで出費も多かったし微妙に収入も減ったし、これから飲食店や旅行にお金を使っていくべきだと余裕ある人としては思うので、10万円もらえるのはありがたいんだけど、
それでも今、役所の人たちがどれだけ苦労していることか。
そして、すぐにもらえると思って期待していた、ほんとうに困ってる人たちは、いつまでももらえていない。
「失敗の本質」とまとめられて、売れているけれど、
組織は大日本帝国のまま、あまり変わっていない。